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MOSFETによるパルス駆動回路の設計

はじめに
本記事では、センサー基板向けに設計した LED パルス駆動回路についてまとめる。スイッチング素子として MOSFET を使い、ゲート抵抗 Rg とゲート-ソース間抵抗 Rgs をどう決めたかを中心に書く。
あわせて、パルス駆動でつまずきやすい「LED の順方向電流」の考え方も触れる。平均電流・ピーク電流・ジュール熱の三つをどう整理するか、データシートの読み方とあわせて書く。
基板は JLCPCB にスポンサー提供いただき発注した。設計の途中経過と、実装で踏んだ地雷も含めて記録しておく。
概要
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スポンサー: JLCPCB
基板の製造・発注に JLCPCB を利用した。ありがとうございます。 -
背景:
所属する団体の教育キットからの卒業の一歩として、壁センサー用の基板を作り直した。従来キットでは LED を常時点灯させていたが、今回はパルス駆動に切り替え、消費電力と外来光の影響を抑えたい。 -
設計のポイント:
- MOSFET による LED のオン/オフ制御
- パルス幅・デューティ比を踏まえた LED 電流の決定(ジュール熱)
- ゲート抵抗
Rg、ゲート-ソース間抵抗Rgsの概算 - データシート値を起点にし、最終的には実測で詰める方針
パルス駆動にした理由
壁センサーは赤外線 LED とフォトトランジスタの組み合わせが一般的だ。LED を常時点灯させると、電流が常に流れ続けるうえ、周囲の照明や反射の影響も受けやすい。
そこで MCU のタイマー出力で短いパルスを出し、LED を間欠点灯させる構成にした。受光側はサンプリングのタイミングを LED 点灯に合わせれば、パルス中だけ壁からの反射を見られる。
制御方式としては、MCU ピンをそのまま LED に直結するのではなく、MOSFET でスイッチングする。理由は次のとおり。
- GPIO から流せる電流に余裕がない(特にピーク電流を確保しにくい)
- 必要なら LED 電源とロジック電源を分離しやすい(今回はいずれも 系で共通)
- ゲート抵抗を入れて波形を整えられる
回路構成
基本形は次のとおり。記号は回路図上の名前に合わせている。
Vcc (LED 電源)
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[LED]
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[Rled] … 限流抵抗
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+--- Drain
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[Q1: Nch MOSFET]
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Source --- GND
MCU GPIO --- [Rg] --- Gate
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[Rgs]
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Source (GND)
- Q1: N チャンネル MOSFET。ソースを GND、ドレイン側に LED と限流抵抗を直列接続
- Rg: ゲート直列抵抗。充放電電流のピーク抑制とリンギング低減
- Rgs: ゲート-ソース間プルダウン。MCU が Low 出力またはハイインピーダンスのとき、確実にオフにする
MCU ピンは ロジック、LED 電源も同系統()を想定している。別電圧にする場合は、レベルシフトや MOSFET の 余裕を改めて確認する必要がある。
LED 電流の決め方(デューティ比とジュール熱)
パルス駆動の設計で最初に詰まったのが、LED の順方向電流 の決め方だった。
データシートに書いてあること
赤外 LED のデータシートには、だいたい次のような項目が並ぶ。
- 連続(DC)時の ()
- パルス駆動時の平均順方向電流 (デューティ・パルス幅の条件付き)
- パルス駆動時のピーク ( などの条件付き。以下 と表記)
設計では、これらを同じ条件で次の三つに分けて確認するのが安全だ。
- 平均電流:
- ピーク電流: (データシートのピーク順方向電流。 条件があれば一致させる)
- 発熱の目安(DC 定格からの保守則):
(1) の は、平均制約としては正しい式だ。ただし (1) だけ満たしても、(2)(3) を外れることがある。逆に (3) だけ見て (1) の条件(, )を無視しても、データシートの前提から外れる。
よくある誤解
- をピーク電流だと思い込む(実際は平均の上限)
- DC 定格 を、そのままパルス中のピークに使う
- 「平均を に合わせる」ために とする(後述のとおり発熱は増える)
- の条件(, )と、自分の駆動条件が違うのに、そのまま を使う
なぜ は危ないか
LED の発熱(ジャンクション付近)は、ざっくり言うと電流の二乗に比例する。抵抗 を一定とみなすと、ジュール損失は だ。
- DC 連続:
- デューティ 、ピーク の矩形波:
「平均電流を に合わせる」ために とすると、 となり、 が小さいほど発熱は 増える。デューティを下げたのにピークを上げすぎる、という典型パターンだ。
DC 定格からの保守則
パルス条件付きの がデータシートに無い、または自分の ・ と条件が一致しないときの目安として、、すなわち を使った。これは DC 連続時と同程度の 発熱に抑える近似であり、メーカーが を別条件で示している場合は、そちらを優先する。
今回の数値例
使用 LED(赤外)のデータシート抜粋:
- DC 連続
- (、 の条件)
- ( の条件)
今回の駆動条件は 、周期 → で、 の記載条件()とはデューティが異なる。そのため はそのまま使わず、次のように整理した。
- 発熱の保守目安:
- ピーク絶対値:( は一致)
のように「DC 定格を平均に合わせてパルス化」すると、(3) の発熱目安(約 )を大きく超える。平均電流だけ見ると に収まるが、 相当の発熱は DC 連続の 10 倍になる。
最終的に を設計値とした。保守則と の両方に余裕を持たせた値だ。
MOSFET の選定
LED 側のスイッチに N チャンネル MOSFET を使った。
- 型番: RU1L002SN(ROHM)
- 特性: N チャンネル、 駆動タイプ
- パッケージ: UMT3F / SC-85 / SOT-323FL
- データシート: RU1L002SN データシート
選定理由は次のとおり。
- として 程度で十分オンになり、 GPIO から直接駆動できる
- ドレイン電流の余裕があり、今回の を問題なく流せる
- 小型パッケージで、センサー基板の実装スペースに収まる
によるドロップは限流抵抗に比べれば小さいが、ゼロではない。データシートでは 駆動時の は数 程度なので、 なら として 前後を見込む。
限流抵抗 Rled の算出
LED 順方向電圧を 、MOSFET オン時の ( と見積もる)とする。電源 、目標ピーク電流 として、
E24 系列から を選んだ。 や は実際の偏りがあるので、実装後はオシロスコープで LED 両端電圧を測り、ピーク電流が意図どおりか確認する前提だ。
ゲート抵抗とゲート-ソース間抵抗
Rg と Rgs は、MOSFET のゲート波形を安定させるための部品だ。ここではデータシートの を使った概算で初期値を決め、実測で微調整する方針とした。
ゲート抵抗 Rg(Ciss による RC 近似)
Rg を入れる主な目的は次の二つ。
- MCU 出力ピンからのゲート充放電ピーク電流を抑える()
- 配線インダクタンス等との共振(リンギング)を抑え、ゲート波形をなめらかにする
データシートより、入力容量の目安として を使う。 は や動作点で変わるため、あくまで初期値の計算に留める。
まず GPIO 保護の観点から、 で充電電流を抑える。MCU 出力の等価抵抗を 、GPIO の出力電流上限を 程度とすると、()が目安になる。リンギング抑制も考え、 を採用した( 程度)。
参考として、ゲートを容量 とみなした一次近似の立ち上がり時間は 。 なら となり、MCU の出力立ち上がり(メインクロック 、 → 約 )と同程度だった。GPIO 立ち上がりに合わせる必要があるわけではないが、極端に速いスイッチングを避けられるかどうかの参考にした。
ゲート-ソース間抵抗 Rgs(オフ時の放電)
Rgs は、MCU が Low 出力またはハイインピーダンスのときに を確実に 0 V 側へ戻すためのプルダウンだ。
MCU が Low を能動駆動している間は、放電経路は主に 側になり、オフは速い。問題になるのは High-Z 時で、そのときの時定数は概算で 。 なら 。
High-Z 時の 減衰を と近似し、 から まで落とす時間は 。
LED パルス間隔(オフ時間)は 程度あるので、 で十分だった。パルス間隔が数 しかない場合は、Rgs を下げて放電を速める(例: なら )。
まとめ(抵抗値)
| 部品 | 採用値 | 役割 |
|---|---|---|
Rg | ゲート充放電の整形、ピーク電流抑制 | |
Rgs | オフ時の 放電 | |
Rled | LED ピーク電流の制限 |
は電圧や条件で変わる。最終的には (必要なら も)をオシロで見て、狙いの波形になるよう抵抗値を調整する。
実装と検証
組み立て
JLCPCB から基板が届き、手実装で部品を載せた。LED・MOSFET・フォトトランジスタまわりは 0603 サイズ中心で、はんだ付け自体は大きな問題にはならなかった。
動かなかった
通電してパルスを出したが、LED が期待どおり光らない。GPIO の波形は出ているのに、ドレイン側の電圧がおかしい。
原因
調べたところ、MOSFET のフットプリントとシンボルのピン対応を取り違えていた。SOT-323 は端子が並んでいるだけで、データシートの pin 配置と KiCad(Fusion)のシンボル定義が一致しているかを、設計時に十分確認していなかった。
ゲートとドレインが入れ替わった状態で実装されていたため、MOSFET が意図どおりスイッチとして動かなかった。回路計算自体より、こういう「地味なミス」のほうが時間を食う。
対処と確認手順
- データシートの pin 配置図と、CAD 上のシンボル・フットプリントを 1 ピンずつ 照合した
- 3D ビューでトランジスタの向きを目視確認した
- 修正版のネットリストを書き出し、再発注前に ERC/DRC を通した
抵抗値やパルス幅の話は設計段階でかなり調べたが、今回の失敗の直接原因は計算ではなく配線図の pin 番号だった。次からは、スイッチ素子(MOSFET、トランジスタ、レギュレータ)は発注前チェックリストに「pin 1 の向き」を必ず入れる。
まとめ
LED パルス駆動回路を MOSFET で組み、ゲート周りの抵抗値を から概算した。LED 電流は、平均・ピーク・ 発熱の三つをデータシートの条件と照らし合わせて決める必要があることも整理した。
実装では pin 対応ミスで一度つまずいたが、計算の筋道と実装の確認項目は別物だと改めて痛感した。回路を書くときは、数式を立てる時間と同じくらい、パッケージの pin 配置を疑う時間も取ったほうがよい。
基板の再発注後、pin 修正版で LED パルスが意図どおり出ることを確認できた。センサー側の感度調整は別途続いているが、スイッチング部分の設計メモとしては、以上が今回のまとめになる。
